20年以上前、「ふるさとのイエス(山浦玄嗣 キリスト新聞社)」という本に出会った。山浦さんは大船渡市の開業医で「故郷岩手県気仙地方の言葉でイエス様の言葉を書きたい、それを故郷の仲間に聞かせたい」という思いから、④つの福音書を「ケセン語」に翻訳した。その取り組みがこの本で解説されている。翻訳と表現されるのは、日本語聖書の標準語を方言に変換したのではなく、ギリシャ語原典からケセン語翻訳への挑戦だったという点からだ。ひらがなでは表現できない発音に新しい表記や文字を創造し、自分たちの言葉で福音を伝えていく熱意を感じることができる。
総主事室に、東日本大震災の際に津波の被害にあった倉庫から譲り受けたケセン語聖書がある。水を吸って膨らんでいて被害を想起させる聖書、自分たちの言葉への翻訳に注いだ山浦さんの情熱を合わせて心静かに聖書に触れることができる。
このケセン語聖書で特に印象深いのは「愛」についての箇所だ。ケセン語には愛という言葉はなく、400年以上前のキリシタンたちが残した文書に用いられていた表現を参考に「愛(する)」を「大切に(する)」「大事に(する)」とした。
「大切に」「大事に」はイメージしやすく、伝えやすい。
2024年度の横浜YMCAの基本聖句は「知る力と見抜く力とを身に着けて、あなたがたの愛がますます豊かになり、本当に重要なことを見分けられるように。(フィリピの信徒への手紙1章9-10節)」である。自らの学習や行動によって、人を大切に思う心が豊かになることで、変化の大きい現代社会においてもYMCAがすべきこと、取り組むことにイエス・キリストの生き方に倣おうと集う会員の皆さまとともに歩んでいく。
(総主事 佐竹 博)