新約聖書には窮地に陥っていた人を助けた「善きサマリア人」のたとえ話がある。権力者や聖職者が見て見ぬふりをして助けなかったことと対照的に「その人を見て憐れに」思い、救助し介抱する行動に結びついたエピソードをたとえに「隣人とはだれか」をイエス・キリストが諭す。
今年もウォーターセーフティーキャンペーンが全国のYMCAで一斉に行われる。YMCAの水泳教室は大切な命を守るための水上安全教室と言っても言い過ぎではない。もしもの時には呼吸を確保し、「浮いて(救助を)待つ」ことが大切である。YMCAでは、水中で慌てず呼吸を確保することを重視し、泳ぐより前に呼吸法を指導する。水中でまずは口から息を吐くことから始め、次に口から吸って水中で鼻から吐く練習をする。地上と同じ呼吸法だが、水中だと意外と難しい。「んー」と水中で聞こえるほど踏ん張っても鼻から出ないこともある。指導者も根気よく何度も一緒に潜る。鼻から「プクプク」と空気の泡が一つ二つと出た時には感動し「ブクブクブク」と出れば共に喜ぶ。
今年度も水上安全ハンドブックを作成した。水辺の危険を知り楽しく過ごす方法や万が一の際にとる行動などの情報が掲載され、YMCAのWebサイトでも公開する。その中には水辺でのことだけでなく、自分の身に迫っている危険を知らせて救助を求める「ハンドサイン」を紹介している。開いた手から、親指をおり、次にすべての指をたたむ動作で、さりげなく人に知らせるサインである。周囲に気づいてもらうこのサインはもっと広く知られてよいのではないだろうか。窮地にいる人の隣人となる善きサマリア人のような人を増やすための働きもしていきたい。
(総主事 佐竹 博)