2021年10月3日日曜日

体験を平和につなぐ Vol.3

奴隷

国民学校の先生からアメリカの奴隷の話を聞いた。「アメリカ人はアフリカからたくさんの黒人を連れてきて、こき使った。今のアメリカには黒人の子孫も多くいるが、奴隷の数は減ってきた。今度の戦争はそれを補うためもある。捕虜にした日本人はアメリカに連れてゆき、奴隷にされる。断じて生きて捕虜になってはならない」。「奴隷船」という映画もあり、奴隷の悲惨さを浮彫にした話であった。奴隷制度は歴史的に真実の部分もあり、全面的に否定はできないことではあった。日本人は「ハラキリ」するとの話のように、敗戦直後切腹自殺した大臣もいた。

終戦後、アメリカ軍の進駐前、私の関心は自分たちが奴隷とされるかにあった。父は戦地から未帰還であったので、母に問うた。母は困り、疎開先で同居していた伯父、父の兄に訊くよう言った。伯父は言った「お前に何かできる仕事があるか?力も特別な技術もない。アメリカに連れて行くにも金がかかる。飯も食わせなければならない。それでろくな仕事もできなければ、割が合わない。多分アメリカさんはそんなことしないと俺は思うよ」。

果たして、アメリカによる日本人の奴隷化は起こらなかった。逆に食料支援や復興支援が行われ、日本は高度成長の準備ができた。戦時中の「鬼畜米英」とはまったくの裏腹の話となった。
※現代では不適切な表現が含まれますが、当時の再現として発言の要旨を正しく伝えるため、そのまま用いています。
(横浜YMCA元常議員 松島美一)