2023年11月7日火曜日

体験を平和につなぐ Vol.28

 アジアの民衆の痛みに思いを馳せる

 書籍を紹介します。一冊目は「戦争と罪責」野田正彰著(岩波書店 1998年)、二冊目は「20世紀からの決別~アジアが日本の戦争責任を問い続ける理由~」ワン・シューグァン著(白帝社 1998年)です。野田氏の「戦争と罪責」には、敬愛する医師である小川武満牧師の生涯が凝縮されて記されています。ご自身は軍医として、特異な経歴を歩まれ、「戦争と罪責」を生涯の課題とされました。幾人かの日本軍将兵の心の深いところに押し込まれていた鈍麻した感情が豊かに回復され、侵略の罪の自覚に目覚めた者が歩む様が記されています。「加害者」意識の覚醒ということの重要さを強く思わされました。

 ワン・シューグァン氏の「20世紀からの決別」では、アジアの民衆の多くが「被害者」であったことを「加害者」としての自覚の希薄な日本人に訴えています。この中で「戦後の日本で戦争の悲惨さを語る際に、被害国の民衆の苦しみよりも、むしろ、広島・長崎への原爆など、日本国民が受けた被害が常に大きく取り上げられている」という指摘があります。その結果、日本国民の多くは、心の底に一種の『被害意識』を植え付けられ、加害者側国民の一人という立場を知らないという人さえ現れているというのです。私も、加害者意識の希薄さは、懸念するところであり、日本人一人ひとりが、戦争の罪過を先人たちのことと不問にすることなく、今もアジアの民衆の痛みに心を馳せる思いが求められていることを自覚し、その責を謝する思いを伝えることが求められていると思います。

(元横浜YMCA常議員・元大和YMCA運営委員長 髙橋信夫)