2021年12月10日金曜日

人形たちが見た95年

1926年12月、1万2千体の人形がサイベリア丸に乗って米国を出発し、年を越して1月横浜港に着いた。人形たちはパスポートとビザを持ち本物の旅行者のように太平洋を渡ってきた。

当時の米国社会は日本人移民に対する排斥運動が盛んであった。熊本など日本で25年間過ごした宣教師の「日本人移民を締め出してはいけない、お互い理解し合えば、きっと仲良く暮らせる」「子どもたちは、国や人種は違ってもすぐに、話しかけたり遊んだり、仲良しになる。その友情を大事にしていけば大人になっても平和に暮らしていける」との想いが人形に託されていた。

横浜に到着した人形たちの歓迎会は3月3日に開かれ、受け入れ団体を代表して渋沢栄一は「今日のひな祭りを私も楽しみました、私はサンタクロースのおじいさんになったつもりでこの大切な人形を、日本中の子どもたちに届けましょう」と約束し、人形たちは国内各地の幼稚園・小学校などへ送られた。

10数年後、戦時になると人形たちは受難する。多くが「アメリカ人と思ってやっつけろ」と、教師に命令された子どもたちに竹やりでつかれ、焼かれるなどした。人形を隠し守った勇気ある行動などにより戦後280体余りが発見された。その後、交流60周年には人形の交換が復活し、横浜YMCAも深く関わった。その時の1体(ジュリアさん)が今、YMCAとつか保育園で子どもたちとともにいる。

クリスマスを待ち望むアドベントの時、希望としてこの世に送られ、私たちの罪のために受難し復活したイエスの生涯と、人形たちの95年の旅路が重なる。人形たちが見てきた過去の過ちを繰り返さずに、公正で平和な社会を見てもらえるようにYMCAは2022年も働き続けていく。

(横浜YMCA総主事 佐竹博)