2021年3月15日月曜日

「流れる時間」と「流れない時間」

表題は、阪神淡路大震災から10年後に出された説教集に出てくる表現である。

法医が主人公のドラマがある。刑事である夫と父とともに事件を解決していく。法医として先入観にとらわれず、事実とその背景に専門家として向き合う静かな熱意が伝わる。このドラマにはもう一つの底流がある。震災で行方不明になった母を探し続ける家族の姿である。架空の街「仙ノ浦」に休みを利用して神奈川から通う父娘、仙ノ浦に住む祖父を交え10年経つ今なお複雑に行きつ戻りつする思いが描かれている。震災後に結婚して家族となった夫は「お義母さんのことだけは分からない…」と悲しみだけでない深い想いにたどり着けないもどかしさに苦悩する。

まもなく10年経過した3・11を迎える。その後も災害はたくさんあった。YMCAでは「3・11をわすれない…つながる」活動を継続している。今年も3・11を覚え、各拠点で祈りの時を持つ予定だ。

説教集には「おそらく、直接に街の回復に作用するのは、キリスト教で言えば、YMCAや社会活動団体でありましょうし…」とありYMCAでは支援に際し人びとの営みに寄り添い、復旧より復興に重心を置いてきた。しかし、それぞれの当事者の心の中にある深い思いにたどり着くことはできないが、そのことは神様に委ね、私たちは自分の知恵の行き着く限りの想いを馳せたい。「災害は目に見えない人の心の復興も大事なんだ」と聞いたことがある。今、感染症に向き合う私たちは復旧復興という目に見えるゴールさえ見いだせない。それでも隣人に寄り添いたいし、そのような活動をいつも心がけていきたい。

『地の基震い動く時』岩井健作 説教集(コイノニア社)

(横浜YMCA総主事 佐竹博)