2018年9月10日月曜日

喜びの糧

夢中に走ってゆく人が見えた
自分達もはだしで走った
人々が道の最中に団って棒立
ちになってゐた
余震の来る度びに人々は
一つところへかたまって
唸るのだ。
(千家元磨)
*****
昨日だれも知らなかった
地震が来た
今日だれも知らない
明日何が来るだらう
人間よ 人間よ
(堀口大学)
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恐ろしい地殻の振動に戦き乍
らもあたたかい隣人の親しみ
をふかく抱きしめることの出
来た私は幸いだ
(中田伸子)


95年前の関東大震災時の文集の一部だ。関東大震災の起きた9月1日を防災の日として、9月は各地で防災訓練が行われる。

今年は6月に、大阪西部でも地震があり、7月には西日本豪雨による水害で多くの方が犠牲となり、今も避難生活を余儀なくされている。全国のYMCAでも広島、岡山で被災者支援の活動を開始し募金も始まっている。

私も岡山の真備町で屋根からボートで助けられた方の家の片付けを手伝った。1階は、完全に水没しており、水につかったもの全てを処分し、床板、壁、そして天井を剥いでゆく。大勢の親族や同僚、ボランティアが駆け付け、膨大な作業も少しずつ片付けられてゆく。

猛暑の中で同じ作業をしつつ名の知らぬ者同士互いを気遣い、水を分け合う。水害の恐ろしさと絶望感の中にある家人が「こんなに人の世話になるなんて思いもしなかった」と語り、片付けが進む中で希望を見出している姿を見た。その姿だけが作業を続ける方々の喜びの糧となっている。災害時の支え合いに、隣人の愛を感じるのは95年前も今も変わらない。

(横浜YMCA総主事 田口 努)