2016年11月10日木曜日

総主事コラム ブログ 2016年11月

恵みに気付く豊かさ

過去の苦しみが、
後になって楽しく思い出せるように
人の心には
仕掛けがしてあるようです。
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川の向こうの紅葉が
きれいだったので
橋を渡って行ってみた
ふり返ると
さっきまでいた所の方が
きれいだった。
(詩 星野富弘)

 この二つの詩を書いた星野富広さんは、体育の教師として授業中の事故で、全身まひとなり、長い治療と闘病生活を経て口で筆を持ち、多くの人びとの心を打つ詩画を書き続けている。登山やスポーツが大好きな体育教師から、寝たきりとなり、残された機能を活かして詩画を書くまでの道のりは、想像を超える困難さがあったと思う。それを「過去の苦しみが楽しく思い出される」「人の心に仕掛けがある」と語り、苦しみにある人に希望を持たせてくれる。
 星野さんの詩画は、何気ない野の花や日常のささやかな出来事から、多くの恵みに気付く詩が多く、人びとの共感を呼んでいる。
 紅葉の美しい季節になってきたが、あっちは、きれいだなぁと思って行ってみると、実は、自分のいたところが、とても美しい恵みに満ちていることに気付く。私たちは、日々、不満や遠いところに理想や希望を見出そうとするが、何気ない普通の生活の中に、家族や友人、知人と声を掛け合い、おはようというとおはようといってくれるような心通い合う日々がある恵みに気付かせてくれる。紅葉は、葉の最後の瞬間に感動する美しさを与えてくれる。しかし、落ち葉や枯葉は目を向けられないが、それらは、土となり、新しい命の温床となる。紅葉は、最後の瞬間まで輝きを持つ命であり、人生を教えてくれるような気がする。
(横浜YMCA総主事 田口 努)